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2024.01.24

【開発モダナイゼーション】第12回「モダナイゼーション戦略にAIを実装する方法」

【開発モダナイゼーション】第12回「モダナイゼーション戦略にAIを実装する方法」
モダナイゼーション戦略にAIを実装する方法

テクノロジーが急速に進化し続ける中、多くの組織にとってデジタルトランスフォーメーションとモダナイゼーションが喫緊の課題となっています。そうした中、人工知能 (AI) はほぼすべての業界で変革の原動力となっています。AIの普及により、モダナイゼーションを行って競合他社に伍して行く必要性だけでなく、企業が目標を達成するスピードも高まっています。この記事では、AI によってモダナイゼーションに対する考え方がどのように変化しているかを説明します。(編集部)

IBMフェロー、CTO、IBMクラウド、クラウドプラットフォームおよび共通サービスの責任者であるジェイソン・マギー氏が、人工知能がどのように私達のモダナイゼーションに対する考え方を変えているかについて語ります。

デーヴァ・スチュワート

モダナイゼーションは、人によって意味が異なる概念の1つです。IBMクラウドのCTOであるジェイソン・マギー氏は、そのやり方には幅があると考えられると言います。一方の端には、直接的なワークロードの移行とリフトアンドシフト(訳注)があります。他方の端は、新しいテクノロジーとクラウドネイティブなアプローチを使用して、レガシーシステムの新しいソリューションをリファクタリングおよび構築することがあります。

課題: モダナイゼーションのやり方と人々

マギー氏はIBMでクラウドビジネス用のプラットフォームを稼働させており、幾つかのアプリケーションを構築し、クラウドに移行している顧客と共に働いています。合目的的アプローチの一部としてクラウドへの移行も含む可能性のあるモダナイゼーションと、人工知能(AI)も今や彼の仕事の大きな一部です。もしシステムのモダナイゼーションのやり方には幅があると考えられるならば、あるアプリケーションは直接クラウドに移行し、他のアプリケーションはリファクタリングを行ったり、新しいソリューションを構築したりすることを選択した組織は課題に直面します。AIはモダナイゼーションのプロセスに対して、新たなそして急激に変化する一連の疑問をもたらしています。

各アプリケーションまたはワークロードをその幅のあるやり方のどこに配置するべきか、早い段階で重点的に取り組む事は最大の考慮事項の1つです。複数のモダナイゼーションのやり方の観点から考え、様々なアプローチを中心にプロセスとチームを構築することで、組織は特定のワークロードに適合するハイブリッド戦略の構築を始められるとマギー氏は言います。「IBMクラウドでは、クラウドに対象を絞ったVMWareやPowerワークロードのリフトアンドシフト移行を行っている大勢の人々を目にします。そしてまた、アプリケーションの変換やモダナイゼーションを行うためにOpenShiftやコンテナを使用している沢山の人々を見かけますが、彼らはこうして実際に変化を起こす傾向があるのです」と彼は言います。

最初から柔軟で包括的な戦略を開発することと共に、変化の結果もたらされる近代化されたテクノロジーを人々が実際どのように使うのかということを企業は考える必要があります。例えば、最初からチームが尋ねるべき質問には次のようなことが含まれます。

  • クラウドの様な何かをどのように適切に巧く活用できるか?
  • プログラムの開発又は展開を変えるために、どのようにクラウドまたはAIが使えるか?
  • セキュリティはモダナイゼーションという難問のどこに、そしてどのようにピッタリ収まるか?

ソリューション:正しい道を選ぶ

組織が、モダナイゼーションのやり方の幅のどちらの端を選択するかによって、異なる経路が存在します。例えば、ストレートなワークロード移行戦略は、選択したワークロードをクラウドに移すことを含んでいる可能性があります。もう1つのオプションはOpenShiftとコンテナを使ってアプリケーションの変換とモダナイゼーションを行うことかもしれません。

プラットフォームチームを構築するもっと構造化されたアプローチは、新たに出現した流行です。そのシナリオでは、組織はクラウドの使い方を標準化するためのチーム、アカウントを設定するためのチーム、クラスターを設定するためのチーム等々を作成するかも知れません。このアプローチはより大きな組織では実際にはうまく拡張できませんが、ある会社にとってこのアプローチはチームがモダナイゼーションの課題のいくつかを克服できるようにするとマギー氏は言います。

新しいテクノロジーを活用するレガシーシステムをリファクタリングする状況では、より合目的的なアプローチがもっと適しているかも知れません。そのシナリオでは、様々なワークロードに適合するオンプレミスとクラウドの適正な混合比を見つけることはもっと役に立ちます。例えば、IBMの大型機は金融の様な法規制された業界のワークロードのようにミッションクリティカルなワークロード向けに最適化されています。その他はフロントオフィス、製造業、マーケティングまたは消費者対面向けのワークロードにより適しているかも知れません。

モダナイゼーション戦略へのAIの影響力

ある組織にとって、モダナイゼーションへの適正なアプローチにはAIソリューションが含まれます。

AIは既に私達の日常生活の一部であると同時に、事実上他のあらゆる領域を破壊しようとしています。組織がそのモダナイゼーション戦略でAIを実装する方法を決断するとき、1つの重要な必要条件を考慮に入れなければなりません。つまり、物事は変化し、しかも急速に変化しているという事です。今日のAIに関する疑問への答えは1か月で違う物になる可能性があるとマギー氏は言います。

しかし、1つの事は確かな様に見えます。「それらすべてのAI技術は、クラウドで最も利用しやすいのです。AIはクラウドサービスとして提供されており、それ故にワークロードをより早くクラウドに移すことは、火にもっと多くの燃料を注ぐ結果になります」とマギー氏は言います。

現在分かっているモダナイゼーションへのAIの影響のいくつかには次の物があります。

  • スキル
    ワークロードの実行を最適化する中で実際に機能するプロセスと技術の構造及びモダナイゼーションのコスト分析を理解するために必要なものは変化しています。

    「『私は以前やっていたのと同じことをやっていますが、それをもっと効率的にやるのを助けてもらうためにAI技術を使っています』という多くの人を目にします。私はそうしたことをとても多く目にしており、伝統的なAI技法のいくつかに追加されつつある生成AI技法を使って、1~2年後にはそれは本当に加速するだろうと考えています」とマギー氏は指摘します。
  • 対象
    モダナイゼーションを行う中核的理由とモダナイゼーションの対象。AIはビジネスプロセス及び組織と顧客との関り方を変えています。それは企業が2000年代や2010年代初期に、その戦略に素早くモバイル技術を加えなければならなかった状況に似ています。

考慮するべき主要なAIとモダナイゼーション要因

組織がデジタルトランスフォーメーションの過程を継続し、AIの役割が増すにつれて、戦略を考える上で考慮するべき主要な要因がいくつかあります。データセキュリティとプライバシーは常に最大の関心事であり続けており、マギー氏は「(セキュリティは)これらのモダナイゼーション環境で常に強い関心を集めてきましたが、(データが)使用されたり新たな方法で埋め込まれたりしているという理由で、より一層AIに関連性があります」と言います。

考慮するべきその他の極めて重要な要因には下記のものがあります:

  • ガバナンス
    考慮するべきことは、データをどのように任意の特定組織内で管理するかを超え、AIモデル自身が使用するデータをどのように管理するかという課題なので、ガバナンスは新たなツールを必要とする複雑な問題です。
  • 法令順守
    法令順守は、極めて重要であり続けるでしょう。法令は進化し続けており、最終的に自社の存続のために会社が統制を行う必要に迫られる法令順守の問題になるでしょう。
  • 相互運用可能性と統合
    相互運用可能性と統合は、歴史的にモダナイゼーションを妨げ、その傾向はAIによって拡大しています。その理由は、組織の資産内の他の全システムと対話できなければならないもう1つのシステムとしてAIが加わるからです。

新たに出現したAI技術の幅広い将来的影響を考えると、会社はセキュリティやガバナンスのような要因がどのように複雑化し得るかと同時に、自身のアプローチやプロセスがどのように影響を受けるかを考慮する必要があります。モダナイゼーションは必要ですが、クラウドまたはAIをランダムかつ非計画的に採用するよりも、慎重に将来の経路を選択した方がもっと安全で優れた結果を生むでしょう。

AIを活用それとも回避?

AIを活用するか回避するかの選択に関して言えば、ビジネスリーダー達はそもそも選択の余地があるのかと疑問に思うかも知れません。ある業界は完全にAIを回避した方がもっと良い状態になる可能性があるのでしょうか? マギー氏によればその可能性はありません。「一般的にAIの新しい波は実際すべての人に影響を与えると思います」と彼は言います。

それが常に答えであるように見えるとしたら、以前の機械学習(ML:Machine Learning)モデルについてはそうではありませんでした、とマギー氏は言います。MLが役に立つ結果を生み出すためには、モデルにはトレーニングを行うための膨大なデータが必要でした。より小さな組織には必要とされる量のデータを入手することができませんでした。

今や基盤モデルと大規模言語モデルの波により、企業は他の企業が参加して使うためにAIを構築できます。基礎モデルはもっと汎用的であり、様々な使用形態に適用できます。これらのモデルは技術的に利用し易く、また実ビジネスの問題を解決もします。その結果、これはほぼあらゆる規模のビジネスに役に立ちます。

マギー氏は実際次のような1つの警告を付け加えています:「AIはコーディングや他の特定のスキルに必要なスキルレベルを下げることができる一方で、ある程度AIそれ自体の経験を必要とします。」 AIを使う組織には、モデルを理解している人を雇う必要がありますが、その獲得は難しい可能性があります。

マギー氏は会社内に「ひとまとまりの専門知識のような小さな中央機能」を育てるか、その専門知識を発達させるのに適したパートナーを探し出すよう提言しています。そのようなグループまたはチームは、多分ほとんどの人が末端の能力を使用するに過ぎない幅広い組織にAIを経験させると同時に、AIにまつわる大きな意思決定を行い、標準を決定することができます。多くの企業が、クラウドへ移行するのを支援するためにプラットフォームエンジニアリングチームを発展させました。そして、AIに焦点を当てた中央グループは同様に運用できる可能性があります。

次に来るもの

将来を予想するのは常に危険な試みですが、マギー氏はモダナイゼーションに関して短期ならびに長期の両面で次に何が来るかについて、深い知識に裏打ちされたある推測をしています。

超短期的には、特定ドメインでの急速なAIの進化が起こると予想できます。マギー氏は、AIが日常のワークフローと同様に「コーディングが本当に上手くなるだろう」と言います。彼は、これは次の12~24ヶ月に予期されることだと考えており、AIは既に文字通り日常のものになっていると指摘します。1つの例は、顧客サービス機能を実行するためにチャットボットが広く使われていることです。

AIがより普及するにつれて、モデル実行の問題が、ある人々にとって阻害要因として浮上し始めるでしょう。いくつかの新しい製品のライセンス料は、以前のソフトウェアライセンス料のおよそ2倍です。マギー氏は、AIの急速な進化は、コストと値ごろ感を理由に減速を余儀なくされるだろうと考えています。

長期的には、ドメイン間の境界を超えることでAIは非常に強力なツールになる可能性があります。「その初期の兆候が見えます。現在でさえ、いくつかのモデルはテキストを処理し、いくつかのモデルは画像を処理し、またいくつかのモデルは動画を処理していますが、今や同時に複数のことを処理できる可能性のあるモデルを目にし始めています」とマギー氏は言います。一例として、いくつかのAIは写真をコードに変換できると彼は言います。この複数ドメイン相は、AIシステムがどのようにビジネスを転換できるかという第2の大波を多分代表しています。

ひとたびその種の技術がモダナイゼーションに適用されれば、ある技術ベースから別の技術ベース、または1つのオペレーティングシステムから別のオペレーティングシステムへと大規模なコードの移行のようなものを考え始めることができます。マギー氏曰く、その時点で「AIは環境を分析し、ものを移動し、物の構築のされ方を転換するといった、より包括的な仕事を行うことができます。」

「数多くの実験が行われていますが、基本的技法がどの様に再適用でき、英語や大規模言語モデルとして始まった事がどの様にとても早くコードになるかをもう目にしているのは興味深いことです。なぜなら、コードは単にもう1つの言語のように見えるに過ぎず、他の多くのデジタル事物は同じに見えることがあるからです」とマギー氏は言います。

「AIは環境を分析し、物を移動し、物の構築のされ方を転換するなど、もっと包括的な仕事ができます。」 ― モダナイゼーションへのAIの影響についてのジェイソン・マギー氏の発言

(訳注)
リフトアンドシフトはシステムをクラウド環境へ移行する方法の1つで、既存システムをそのままクラウド環境に移し、修正を加えずに使用する方法を指します。

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