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2023.02.21
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【ロング・インタビュー】IBM Power事業部長 原 寛世 氏
「お客様の業務継続とチャンス獲得に応えるべく、IBM Power/IBM iをベースにモダナイゼーションを実現する」

【ロング・インタビュー】IBM Power事業部長 原 寛世 氏<br /> 「お客様の業務継続とチャンス獲得に応えるべく、IBM Power/IBM iをベースにモダナイゼーションを実現する」
【ロング・インタビュー】IBM Power事業部長 原 寛世 氏<br /> 「お客様の業務継続とチャンス獲得に応えるべく、IBM Power/IBM iをベースにモダナイゼーションを実現する」

コロナ禍による一時的な低迷があったものの、現在IBM Powerは急速なV字回復を遂げている過程にあります。そうした中、今後のIBM i市場を切り拓いていく新たなリーダーとして、2022年9月にIBM Power事業部長に就任したのが理事の原寛世氏です。デジタルトランスフォーメーション(DX)を見据え、お客様のITシステムのモダナイゼーションを支えるプラットフォームとして、IBM PowerおよびIBM iを中核にいかなるビジネス戦略や施策を展開しようとしているのか伺いました。

<人物>
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
IBM Power事業部長
理事
原 寛世 氏

テクノロジー・ライフサイクル・サービス体系を確立した立役者

――まずは原様のご職歴を含めたプロフィールをご紹介ください。

前職では某通信機器メーカーで北米向け携帯電話の販売プロジェクト従事しており、いわゆる第二新卒として1997年に日本IBMに入社しました。最初はIGF(IBM Global Financing)というリース・ファイナンシングの組織に所属し、セールス・スペシャリストとして活動。その後2004年から2年間ほどIBMアジア・パシフィック・グループへ出向し、マーケティング部門でサービス開発のリーダーを担当。ふたたび日本IBMに戻ってきてからは、オンラインでのリース契約の開発やソフトウェア・コンプライアンスなどのマネージャーを2010年まで務めました。IBM i(当時AS400)のCPO(Certified Pre-Owned equipment)の先駆けとなる中古機販売のスキームを立ち上げ、全国に展開を始めたのがちょうどこの頃です。

――そして2011年からはGTS(Global Technology Services)事業本部に移られたと伺いました。

そのとおりです。ワークプレース・サービス事業部長を務めたあと、GTSが主体となってお客様のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進のコンサルティングから導入展開まで一貫して対応できる組織の立ち上げにアサインされ、TCIS(Technology Consulting & Implementation Service)事業のマネージャーを務めました。外部からも多様な人材を集めてスキルフルでユニークなチームを作り、インダストリーごとのDXのTo-Beモデルを策定するなど、私自身のキャリアにおいても大きなポイントとなっています。
実はその後、さらに大きな転機が訪れました。TCISの組織も出来上がったし、軌道に乗っていくだろうから、「次はTSS(Technology Support Service)チームの営業改革をやってほしい」というアサイメントが、2020年6月に急遽下ったのです。スキルフルなチームメンバーたちはそのままTCISに残して、私はひとりTSSに異動することになりました。

――かなり波乱に満ちた展開ですね。

しかも同年10月に発表されたのがGTSの分社化で、大半のメンバーがKyndrylに移っていきました。そんなことから保守サービスを担当していたTSSチームのみが日本IBMに残ることになったのです。

――普通だと、残された自分は何をすればよいのか、戸惑ってしまいそうです。

それがそうでもなくて元々チャレンジ好きな性格が幸いしたのか、TSSの変革モデルづくりにすぐに取り掛かりました。ちょうどCX(カスタマー・エクスペリエンス)という言葉が流行り始めた頃でもあり、お客様体験を次への購買に繋げていくアプローチこそが、TSSが最も実践しなければならないマーケティングやセールスの在り方ではないかと考えたのです。実際これを実現してはじめてTSSは新たな価値を生み出すことができます。そのためには単なる保守サービスの営業ではなく、お客様のテクノロジー・ライフサイクル全体をカバーするパートナーになる必要があると提唱したところ、グローバルのエグゼクティブも耳を傾けてくれました。
この結果、デプロイ(計画、導入、構成)、サポート(修理、ファームウェア更新、ソフトウェア更新、Tools)、オプティマイズ(監視、自動化、セキュリティー、脆弱性、パフォーマンス)、レフレッシュ(拡張、移行、廃棄)のいずれのタッチポイントからも、お客様とコンタクトをとることができるテクノロジー・ライフサイクル・サービス体系を確立することができました。

IBM iは今もテクノロジーの最前線にある

――IGFからTCIS、TSSまで幅広いフィールドで活躍し、さまざまなセールスのスキームやモデルを提唱されてきた原様がIBM Power事業部長に就任されたことには、とても大きな期待を感じます。まずは現在のIBM i 市場に対する印象をお聞かせください。

IBM iはIGF時代から関わっていた経緯があり、私にとって非常に愛着のあるプラットフォームです。そんな中、2022年9月にIBM Power事業部長に就任することになり感激したのは、当時のパートナーのほとんどが健在で元気にあふれ、APIもどんどん開発されて繋がりも広がっており、エコシステムが盛り上がっていたことです。ともすればIBM iはレガシーなシステムとして見られがちですが、それは大きな誤解であり、今もテクノロジーの最前線にあることを実感しました。

――その印象は、着任から数か月経った現在も変化はございませんか。

変わらないどころか、むしろ確信を深めています。前任者からも「IBM iはまだまだ現役だよ」と引継ぎを受けましたが、まさにそのとおりだと思いました。しかも日本におけるIBM Power事業のセールス体制は、グローバルの目から見てもほぼ理想に近い形にあります。テックセールスでカバーすべき事業領域、お客様へのハイタッチなアプローチ、エコパートナーとの協業など、非常にバランスよく展開されています。このポートフォリオを維持しつつ、今後の事業戦略を推進していけばよいのです。

――そうした観点も含めながら、これまでのビジネスを振り返っていただければと思います。2022年はIBM i 7.5の発表、そしてPower10プロセッサーのフルラインアップへの展開など新製品が目白押しでした。一方、半導体不足による供給問題や相次ぐ製品価格改定など、逆風とも取れる状況もあったかと存じます。

ビジネス全体の実績から言えば、まだ期待値には及ばないもののコロナ禍による需要の低迷からのV字回復が始まったのが2022年でした。ただ内訳をみると、Power Virtual Serverの売上が思ったほど伸びておらず、日本市場では依然としてクラウドよりもオンプレミスの需要が大きいようです。
実際の商談ではPower Virtual Serverとオンプレミスの比較が多く、その選択は初期構築だけでなく、運用に至るまでのコストや体制で検討されていると感じています。

――2022年はPower7+搭載モデルのEOS(保守終了)に伴うリプレースが重なったこともあり、結果的にオンプレミスの比重が高まったのかもしれませんね。

ただ、当然のことながら私たちもPower Virtual Serverのビジネスはこれからが本番と認識しており、さらにアクセルを踏み込んでいきます。
実際、全世界15ヶ所のデータセンターで運用されているPower Virtual Serverは2022年末時点で580社以上のお客様にご利用をいただいています。2019年には日本のデータセンターにも配置され、追い風となっています。
たとえばサポートが終了している古いOSのバージョンをお使いのお客様の場合、POCや検証区画でまずOSのバージョンの変更によるアプリケーションの稼働検証を実施され、移行期間を経て、本番環境としてご利用いただいております。各フェーズによって必要なキャパシティーの増減が生じますが、クラウドの柔軟性によりその時点で必要なキャパシティーでご利用いただいています。
またネットワーク接続のVPNaaSの提供が始まって以来、IBM iのユーザー数が圧倒的に増えています。いただいております改善要望に関してもGlobalと連携し、より使いやすい機能、サービスを提供するよう改善に今後も努めてまいります。加えて、よりハイパフォーマンスなIBM Power を求めるお客様の声が高まっており、このニーズにお応えする基本シナリオの1つとしてもPower Virtual Serverを強く打ち出していく考えです。

2023年度においてIBM Power事業が注力する4つの施策

――ぜひ2023年度に向けたIBM PowerおよびIBM i のフォーカスエリアやビジネス展望をお聞かせください。

IBM Power事業全体としては、現在4つの柱となる施策を策定しています。
1つめは「CORE Business」。高効率なPower10プロセッサーによりエネルギー削減に貢献するとともに、高可用性なIBM Powerの運用管理をさらに自動化していきます。
2つめは「Banking and Industry Modernization」。コンテナ対応ISVソリューションを活用し、変化を俊敏に更新できる新しいアプリケーション開発をRedHat OpenShiftで実施いただき、必要に応じでAIXおよびIBM iとの連携のために既存のアプリケーションのモダナイズを進めながら、複雑化するインフラ環境の運用変革を加速します。
3つめは「Power as a Service」。事業継続を最適な場所とコストで実現すべく、Power Virtual Serveを活用した摩擦レスなハイブリッドクラウド上でアプリケーションを稼働させ、よりセキュアーなアプリケーションをプライベートクラウドに配置した場合にも従量課金の選択が可能となり、オンプレミスでもパブリッククラウドでも一貫したアーキテクチャーと自動化を取り入れた運用が可能となります。
4つめは「SAP S/4HANA」。SAP S/4HANAのインメモリー型データベース用に特別に設計されたIBM Powerを提供するとともに、オンプレミスとIBM Cloudの両面で幅広いSAP S/4HANAの選択肢を用意します。既存のお客様を大切に、Coreのビジネスを育てつつ、成長分野としてのas a service、それに伴うモダナイゼーションを主軸に、お客様の需要に即したIBM Powerの活用方法および製品戦略を強化していく方針です。

――特にIBM iのお客様にフォーカスすると、特に気になるのはやはり「CORE Business」と「Power as a Service」の2つに関する施策でしょうか。

おっしゃるとおりで、Power7+に続いて2022年11月にPower8搭載モデルのEOSが発表されたこともあり、CORE BusinessにおいてもTSSで取り組んできたテクノロジー・ライフサイクル・サービスを見据えたメッセージをお届けし、次世代プラットフォームへの移行をしっかり支援していく必要があります。その中の選択肢の1つとして、Power as a Serviceを提案していきたいと考えています。

――Power as a Serviceということですが、今後、オンプレミスとクラウドの違いを問わず、いよいよサブスクリプションの世界が本格化すると考えてよいのでしょうか。

Systemサブスクリプションという製品のIBM i版を2022年に発表しました。オンプレのIBM Power S1014サーバー、IBM iソフトウェアおよびサポートサービスを1つにまとめて、年単位でお客様にご請求するサービスです。これはIBM i P05のお客様を想定し、設備投資ゼロのオンプレ・サブスクリプションを提供することにより、より短いサイクルで新しいテクノロジーの利用を促進するお手伝いができるものと考えております。このように現在、日本IBMとしてもサブスクリプションに対するお客様ニーズの高まりを強く認識しています。今後企業の75%がas-a-Serviceでのコンサンプションベースのサービスにメリットを感じるようになり、柔軟なas-a-serviceソリューションを介して提供されるオンプレミス・インフラストラクチャの需要が3倍に増加すると予測されています。ハイブリッドの需要に対応する場合、Private Cloudでもオンプレミスでも、消費モデルへの対応が必要になってきます。この実装に向けて環境を整えている最終段階です。

――施策のもう1本の柱「Banking and Industry Modernization」で挙げていただいた、OpenShift対応についてはいかがでしょうか。IBM iの新しい開発環境であるMerlinなども注目されましたが、IBM iユーザーにはまだ敷居が高いのではないかという印象もあります。

昨年私どももMerlinのご紹介を数多く実施してきた中で、ご興味を持っていただくお客様が多くいらっしゃると実感しています。その中でご指摘の点については私たちも課題意識を持っており、まだ詳しいことはコメントできませんが、たとえばMerlinをシングルノードでの運用を可能とするとかSaaS提供するなど、Merlinをよりライトに使い勝手の良いものにするようグローバルにもリクエストを出している最中です。さまざまなアイデアを議論している段階ですが、近いうちに何らかの発表ができると思いますので、お楽しみにお待ちください。

また.NET on IBM Powerが発表され、IBM iベースのアプリケーションが稼働しているIBM Power上で.NETアプリケーションを運用できるようになったことにもぜひご注目ください。多くのお客様で使用されている.NETをPowerの環境に集約することで、サーバー数を削減し、電気料金を下げ、メンテナンス作業を減らすなど、昨今のあらゆるお客様の共通課題であるサステナビリティーに貢献できると考えています。同時に.NETの開発をIBM Powerで実施することで、開発者における新テクノロジーへの敷居を下げることも期待しています。

――今後も機能拡充されていくIBM PowerおよびIBM iのロードマップは明るいと捉えてよさそうですね。たとえばIBMが以前から訴求してきたREST APIを使った外部連携についても、ここ数年でお客様事例が多数発表されるようになるなど、IBM iを中核としたITシステムやデータ活用の広がりを感じます。ただ、一方でユーザーの皆様からはIBM iの技術者が不足しているという声も引き続き伺っています。いまだにRPG IIIを使い続けているお客様も数多く残っており、このような課題を日本IBMとしてどのように解決していこうとお考えでしょうか。

とても難しい課題であり、日本IBMも1社だけでは解決は成しえません。そこで提唱しているのが、複数のパートナー同士の共創です。お客様と直に接している各地域のパートナー、多くの技術者を擁しているパートナー、システム構築を得意とするパートナー、運用に長けているパートナーなどが、日本IBMを含めてしっかり連携していく新しいエコシステムの共創モデルをつくりたいと考えています。もう1つは、パートナーやお客様における技術者育成を支えていく観点から、教育研修プログラムの整備はもとより、グローバルレベルでコミュニケーションをとれるパスも用意していきたいと考えています。たとえば現在IBM i 開発元の米国ロチェスター研究所では、IBM PowerおよびIBM iに携わっている技術者の平均年齢は20代後半となっています。そうした若い世代の技術者と交流を進めていく活動も、積極的に企画していこうとしています。

いずれにしても早急に手を打つ必要があり、この1、2年が勝負です。IBM Powerを信頼して活用し続けてくださっているお客様を大切にしながら、お客様の業務継続の観点からサステナビリティー対応やセキュリティー対応を強化していきます。また、DXアプリケーションを摩擦レスに稼働させるサービスビジネスの拡張にも注力し、技術者不足への対応をまずはシステム運用周りから始めるなど、さまざまなパートナーと共創しながらお客様のモダナイゼーションを加速させるお手伝いをしてまいります。

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