コラム
移行先サーバーとしてのIBM i(1)


コラム連載にあたって

1988年の発表以来30年近く、IBM i がこれまで命脈を保つことができた最大の要因は、アプリケーション資産を継承する仕組みを備えていることにあります。同じIBM i を前提に後継のハードウェア、OSバージョンにアップグレードする方が、他のサーバーへと移行するよりもはるかに容易でコストもかからないというわけです。市場を確保し続けるという意味では価値あることなのですが、ビジネスの欲求として当然のことながら、停滞するだけではなく新たなお客様も獲得しよう、という活動も行われます。ですが現在の日本においては、新規に立ち上げた会社でもない限り、ITを初めて導入しようというお客様はまずありません。必然的に他社サーバーのお客様に、如何にしてIBM i を理解し移行いただくのか、という課題にも取り組むことになります。

これから3回にわたって、市場のダイナミズムの中でIBM i がどのように位置付けられ、競合しながら多くのお客様を獲得してきたのか、特に他サーバーからの移行という点に着目しながら、そこに至るまでの検討経緯を探っていきたいと思います。移行において追求するべき価値は何なのか、それを最も良く具現化できるサーバーは何なのか、という視点でサーバーを選定いただきたい、という筆者の願いでもあります。

ダウンサイジングという名の移行

市場全体を眺めると、サーバーの移行には、1990年代に盛んだったダウンサイジングという言葉で表現されるような大きな波がありました。ここには二つの要素が絡んでいると考えています。

一つはUnixやWindowsサーバーの台頭です。それまでは業務用途という表舞台に登場することはまずありませんでしたが、従来の汎用機程の能力や安定性は無くても、複数のマシンを連携させることで、技術的に代替可能であることが市場に知れ渡るようになります。複数のシステム間で連携できること、すなわちオープンであるということから、この新勢力はオープン・システムと呼ばれました。その実態はTCP/IPプロトコルやODBCの標準搭載に過ぎないものであったりするのですが、旧勢力を否定するかのような明るい言葉の響きがあったこと、そして何よりも初期導入コストを低く抑えられたことが、この流れを後押しします。

もう一つは2000年問題です。旧来の多くのアプリケーション・プログラムにおいては、データサイズを少しでも削減しようという意向の元に、年号を表すのに西暦の下2桁のみを使用していたのですが(涙ぐましい努力ですね)、そのままでは00年は99年の次に来る年とは見なされないために様々な問題を引き起こします。省略せずに4桁を使用するよう修正すれば良いのですが、それはすなわちアプリケーションの改修を意味します。どのみち多大なコストと手間をかけて見直さなければならないのだったら、サーバー自体も見直そうという機運が高まります。1990年代末は、汎用機そのものの置き換え需要がピークを迎えただけでなく、汎用機からの移行の受け皿として、IBM i は数多くのお客様に採用されました。この最大の動機はコスト・ダウンにありました。

汎用機市場動向

ところでJEITA(一般社団法人・電子情報技術産業協会)情報・産業社会システム部会の公表データ(https://ibm.biz/BdswcK)によると、1990年代末にピークを迎えた汎用機出荷台数は右肩下がりの一途を辿っています。全メーカー合算で年間3000台を超えていた新規出荷台数は、2014年には300台を割り込みました。メーカーにとってはビジネスになりにくい、そうなると投資額も抑制され、新たな機能を搭載するペースも落ちる、中にはサポート打ち切りを表明する、といったところもあらわれます。ユーザー側では、汎用機のライフサイクルのどこかで、他サーバーへの移行を検討します。この動きは2000年を過ぎた後も継続されているのです。
話が脇に逸れますが、IBMの汎用機であるz Systemsの場合は様相が全く異なります。メーカーとして持っている他の製品ラインアップと、基礎的な技術を共有化するなどして投資効率を高めているばかりでなく、そもそも市場は日本よりもはるかに大きな世界にあるので、現在においても健全な投資を継続しています。

次に立ち上がる移行の波

さて、IBM i への移行の観点から、現在は次の波が立ち上がろうとしている時期にあるのではないかと考えています。果たしてそれが正しい観測なのかどうかは、後の判断に委ねるとしまして、ここではその根拠を説明したいと思います。

汎用機からの移行については、かつて程の大きな動きはもうないでしょう。JEITAのデータを元にすると、製品寿命を長めに10年と仮定したとしても、日本で稼働中の全マシン台数は5000台にも満たない計算です。7年とするとほぼ半減します。移行元マシンの数に限りがあるのと、今でも稼動している汎用機はユーザーが、現行汎用機が業務上最適である、という判断を背景にしていると考えられますので、移行のペースは現在と変わらず、大きく加速することはまずありません。

日本における稼動中全台数を示す正確なデータはありませんが、次の移行の主役候補はオフコンだと思われます。中堅・中小のお客様向けの業務用途専用マシンであり、使い易くメーカーの手厚いサポートがあることも評価され、数多くのお客様に導入されてきました。今でもおそらく数万台が現役として稼動しています。しかしながら大きく発表されているわけではありませんが、メーカーがサポート打ち切りを表明している、新技術が実装されない、などの事情により先行き不透明感が強くなってきているのが実情です。そのジレンマは例えば以下の記事においても表れています。

参考:オフコンの憂鬱(日経ITPro Active)
参考:NECがオフコン事業からの撤退を発表。ユーザーはどこへ向かえばいいのか?(日経ITPro Active)

ここでもコスト・ダウンは動機として最大のものの一つですが、汎用機からの移行ほどにはシンプルではない点に注意が必要です。汎用機においては、例えばメーカーからの派遣SEを受け入れるコスト、ハードウェアやソフトウェアの保守コスト、さらには月額ライセンス料金制度によるコスト、などが極めて大きいために、移行プロジェクト費用を容易に相殺することができました。オフコンにおけるこれらコストは相対的に低いので、IBM i への移行の場合はもう少し視野を拡げて、システム保守の手間(人件費)や長期的なアプリケーション資産の継承性、といったものにも目を向ける必要があるかも知れません。近い将来に保守サポートが無くなってしまう、というリスクも考慮する必要があります。最近オフコンからIBM i へと移行するケースが増えてきていますが、ユーザーはこのような総合的な判断をされているのです。

Windowsサーバーは果たして最適解か

現実問題として、真っ先に移行先候補にあがるのはWindowsサーバーであることが多いようです。だからと言って、それが最適解とは言い難いのも事実です。ここで汎用機やオフコンからの移行先を選定する上で、どのようにして次期システムを検討すれば良いのか、その思考過程を追ってみましょう。まず必要になるのは、評価軸を決めることです。どのような目的のために、どのような尺度ないし価値をもって、サーバーを選定するべきか、という判断基準です。これが適正でないと、出だしから躓くことになります。

次回は移行の行く末を左右する、サーバー選定の判断基準について述べると共に、候補となるそれぞれのサーバーをどのように評価できるのかを見てまいります。

第2回はこちら

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著者プロフィール
安井 賢克(やすい まさかつ)
日本アイ・ビー・エム株式会社にて、パワーシステムの製品企画を担当。エバンジェリストとして、IBM i ないしパワーシステムの優位性や特徴を、お客様やビジネス・パートナー様に理解いただく活動を日々続けています。また、大学非常勤講師として、100人近い学生に向けてITとビジネスの関わり合いについて述べる講座も担当しています。

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