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スペシャル
「POWER9」の優位性と製品化を支える先端技術
世界最速のコンピューターを実現した背景とは

2018年8月31日


2018年6月9日、IBMと米国エネルギー省のオークリッジ国立研究所が、新しいスーパーコンピューター「Summit」を発表しました。1秒間に20京回(200ペタフロップス)の計算が可能な、世界最速のスーパーコンピューターです。そこで採用されているのが、POWER9プロセッサーです。IBM i の最新サーバー基盤にも搭載されているプロセッサーの特徴と、世界最速の性能を実現できた背景などについて、日本アイ・ビー・エム株式会社、サーバー・システム事業部コグニティヴ・システム事業開発AI推進部の間々田隆介部長にお話を伺いました。

大型チップの製造を実現した素材技術

POWER9の大きな特徴の1つは、チップ面積が非常に大きいということです。

1つのCPUの中に多くの機能を搭載するためには、高集積化と同時に、チップ面積を広げることが有効になります。しかし、半導体に関する高い技術力がなければ、大きなCPUを製造することはできません。

その1つの例が、素材技術です。半導体のチップは、ウェハーと呼ばれる板状の材料に、電子回路のパターンを写真のように焼き付けて作ります。この際、チップ上に結晶欠陥(ディフェクトと呼ぶ)が1つでもあると、電子回路が機能しなくなり、製品化できません。チップ1枚当たりの面積が大きくなるということは、チップ内のどこかにディフェクトが含まれ、不良品になる可能性が高まるということです。POWER9を問題なく製造できている背景には、ディフェクトが少なく、極めて高品質なウェハーを製造できる高い素材技術があるのです。

製品化を支えるパッケージ技術

また、大きなCPUを製品化するためには、CPUを包み、マザーボードに設置するための優れたパッケージ開発が必要になります。CPUのパッケージは、まさに技術の結晶と言ってよい存在です。

パッケージの重要な機能の1つは、CPU使用時の熱を効率的に外部へ逃がし、誤動作を防ぐことです。POWER9は、大きなチップ面積の中に80億個のトランジスタを擁しています。先代のPOWER8が42億個だったことを考えれば約2倍の増加であり、実使用時には人が触れると火傷するほどの高温になります。この熱を排除するため、POWER9のパッケージは巨大な熱伝導モジュールを備え、使用時はその上に放熱板を装着して、空冷式または水冷式で冷却する仕組みになっています。

また、POWER9には、計算に必要なプロセッサーやレジスターのほか、ネットワークやメモリーへのアクセスなど、多数の回路が実装されています。その回路の一つひとつから、外部に個別に配線できなければなりません。この時、半導体チップのままでは細か過ぎてマザーボードに配線できないため、CPUを包むパッケージによって、配線できる大きさに拡大するのです。

POWER9の配線は、パッケージ内の分厚い基盤を介して拡大され、パッケージの裏側に多数の電極として露出しています。チップ面積が大きいPOWER9の場合、従来と同様に設計すると、パッケージサイズが非常に大きくなり、マザーボードの設計に影響を与えてしまいます。そこで、今回はパッケージを小型化するために、パッケージの基盤の配線を三次元構造にして高集積化を図りました。

CPUをパッケージの基盤に設置するためのノウハウも、大きな技術的要素です。半導体チップをパッケージの基盤に設置する際は、チップの小さな電極の上に微細なハンダの玉を点のように並べ、それを温めてから、基盤の上に載せます。この際、チップ基盤も薄いため、熱をかけるとお互いに反り返ってしまいます。反り返った状態で両者を接合し、温度が下がると、反りが戻って真っすぐになるのです。この反りと戻りの挙動を計算して両者を接合し、半導体が冷えて真っすぐになったとき、すべての電極がショートすることなく結合している状態にしなければなりません。POWER9のように大きなCPUでは、その難易度も非常に高くなるのです。

三次元構造のトランジスタで高密度化

先代のPOWER8までは、半導体のトランジスタを平面構造に配置していましたが、POWER9からは、三次元構造のトランジスタを採用しています。これはIBMだけが持つ技術ではありませんが、重要なのは、回路パターンの線幅です。IBMは今回、14nm(ナノメートル)の線幅で三次元化を実現しました。

さらに、POWER9がユニークなのは、そこにシリコンインシュレーター(SOI)を採用している点です。SOIとは、絶縁膜によって信号の遅延やリーク電流を防ぐIBM独自のシリコン構造のことです。高い電圧をかけられるため、CPUを高いクロック数で動かせるという利点があります。POWER9では、このSOIの上に三次元構造のトランジスタを形成する技術を初めて開発しました。

GPUを活用して破格の計算性能を実現

今回発表されたスーパーコンピューターのSummitは、2011年に世界一になった日本のスーパーコンピューター「京」の20倍の性能があります。これが実現できた最大の要因は、CPUとGPUを組み合わせたこと。これは、非常に斬新な発想なのです。

従来のスーパーコンピューターは、とにかく集積度の高い高性能なCPUを開発し、それをたくさんつないで同時に動かすことばかり考えてきました。

しかし、これには大きな問題があります。たくさんのプロセッサーを同時に動かすと、消費電力が大きくなってしまうのです。

そのため、スーパーコンピューターの開発では、計算能力の向上と並行して電気代がかさむようになりました。それは年々エスカレートし、最近では、費用対効果の面でビジネス上の使用に耐えられないレベルにまでなっていたのです。

そこで、IBMが目を付けたのが、GPUの活用です。

CPUの場合、どうしても1枚のチップに搭載できるコアの数が限られてしまいます。POWER9の場合は、最大で24基です。しかし、大量の計算を必要とする画像処理向けに誕生したGPUは、それを3000基以上も積むことができます。まさに、ケタ違いです。

もちろん、GPUは計算用の回路しか持たないので、GPUだけでサーバーを作ることはできません。IBMは1つのサーバー内にCPUとGPUを搭載し、両者を高速なインターフェイスでつなぐことによって、高性能かつ低消費電力のコンピューターを開発できると考えました。

IBMはNVIDIAと提携し、同社の新しいGPU「Volta」を採用しました。POWER9とVoltaの間のデータ転送を高速化するため、NVIDIAの通信インターフェイス「NVLink 2.0」をPOWER9内に実装しました。これは本来、GPU同士を高速につなぐために開発されたインターフェイスで、「PCI Express」の5.6倍のデータ転送速度を実現します。それをCPUに搭載したのは、POWER9が世界で初めてです。

POWERアーキテクチャの優位性とは

NVLink 2.0がそれほど有効なのであれば、他社もすぐに追随するだろうと思われる読者も少なくないでしょう。しかし、それは容易なことではありません。その秘密は、POWERシリーズの独自のアーキテクチャにあります。

POWERのアーキテクチャは、最初から外部との高速なインターフェイスをたくさん持てるように設計されています。この点が、POWERシリーズの大きな特徴です。POWER9はNVLink 2.0によってGPUとの高速なやり取りを実現しましたが、ほかにも「PCIe G4」や「Open CAPI 3.0」など、業界最先端のインターフェイスを搭載し、すべて同時に使用することができます。

中でも、Open CAPI 3.0は、CPUが周辺機器とメモリーを共有することによってデータ転送に伴う遅延を削減するという、画期的なインターフェイスです。その基本コンセプトは、2010年にIBMが提唱した、データセントリックコンピューティングにあります。すなわち、データをなるべく動かさないで計算するという考え方です。コンピューターの計算を遅くしている主な原因は、データの転送です。ならば、周辺機器とCPUが同じメモリーを共有するようにできれば、データを動かす必要がなくなるわけです。

CAPIは最初にPOWER8に搭載されましたが、POWER9ではOpen CAPI 3.0という形で、さらに進化しました。サードパーティ企業が、この規格を利用して様々なアダプターカードを開発できる仕組みを提供しています。

時代はオープンアーキテクチャへ

2015年、IBMが半導体の製造部門を譲渡したために、半導体の開発をやめるのではないかと心配された方がいらっしゃると聞いています。しかし、それは全くの誤解です。

IBMは、シリコン材料やパッケージの開発を含め、半導体製造に関するプロセス全般の研究と開発を続けてきました。しかし、製品を大量生産する技術については、以前から他社と協力して進めてきたのです。

米国ニューヨーク州に、IBMのナノテク半導体リサーチセンターという施設があります。ここに、ウェハーやパッケージ、半導体製造装置などのメーカー各社が集まって、製造技術を開発しています。日本の半導体製造装置メーカーも参画しています。

IBMは様々な半導体チップを開発しますが、それを製造する方法やノウハウは、メーカーや工場ごとに異なります。具体的な生産技術に関しては、IBMは常にパートナー企業と協力して進めてきたのです。

以前はIBMも自前の生産工場を持っていましたが、3年前にこれを売却し、開発に専念することにしました。IBMは半導体の開発をやめたわけではなく、製造までのすべてを1社で抱えるのはやめた、ということなのです。

半導体のあらゆる事業を1社で完結させる時代は終わりました。ソフトウエア業界に革命を起こしたオープン化と同様に、ハードウェアの世界でも、オープン化を進めて他社と協力しあい、開発のスピードを上げるべきだと考えています。

このオープン化戦略により、IBMはユニークな技術を持つ多くの企業と協力関係を築こうとしています。POWERシリーズを中心とする大きな企業集団を形成して、市場における存在感をさらに高めようとしているのです。

 

編集後記

iCafe運営会社にもPOWER9搭載のPower Systems S914が導入されましたが、「米国エネルギー省に導入されたスパコンと同じプロセッサーが搭載されている」と思うとワクワクします。しかもそれは単なるワクワクに留まらず、アメリカの3大スパコンから市井の汎用サーバーまで幅広く採用されることにより、製造コストの削減だけでなく、次世代への投資にもつながることを考えると、IBM i をお使いのお客様にも十分な恩恵をもたらすものになる筈です。これからもPOWER9の技術発展から目を離せません。

また、去る6月1日に、IBM箱崎事業所にて、「【HPCとAIの融合】~事例から学ぶ科学と技術の革新~ 」(主催:ビジュアル・テクノロジー株式会社)が開催されました。今回の記事と深く関わる部分ございますので、ご興味のある方は、ぜひとも当資料をダウンロードして、AIの新たな取り組みに触れてみてください。

 


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