ニュース
コグニティブ、AIからPOWERまで、旬のキーワードから先端ビジネスを読み解く ~IBM Watson Summit 2017セッションレポート~



2017年4月27日と28日の2日間に渡り開催された、日本アイ・ビー・エム株式会社主催の「IBM Watson Summit 2017」。昨今、ビジネスの世界で大きな潮流となりつつある、コグニティブ・テクノロジーのビジネス展開例やその動向、技術解説など幅広い内容のセッションが開催されました。

コグニティブ、AIやディープラーニングなどの実現には、これまでのビジネスで積み上げてきた基幹部分の業務システム(SoR)とおのずと連携が求められることになり、その観点ではIBM iの関係者もひとごとではありません。

今回のセミナーレポートではIBM i関係者がコグニティブの考え方を取り入れる際に参考になるよう、3つのセッションの内容を紹介します。旬なキーワード「コグニティブ」活用のヒントが得られる講演を編集部がレポートします。

『クラウドとアナリティクスで変革を起こすコグニティブ時代のITインフラストラクチャー』

今回紹介する最初のセッションは、日本アイ・ビ-・エム株式会社の武藤 和博氏が登壇。コグニティブに適したIT基盤には3つの要素が求められていることを説明しました。膨大なデータを『長期間蓄積』、『高速で処理』、『保管・管理を自動的に最適化』するという3つのプロセスを説明するために、東京医科学研究所の事例を紹介。指数関数的に増加するゲノムデータと、毎年20万件以上も増加するガンの研究論文を短時間で解析し、真の病名の特定と効果的な治療を実施することで、尊い人命を救うことに直接的に貢献していると、同氏は紹介します。また、過去8年間だけでデータサイズが70倍以上にも膨らんでいる多大な情報量を有するゲノムデータのようなものを、効果的に、長期間に、安価に保管するには、近年、省電力とコスト効率の良さが見直されているテープ・ストレージの利用もひとつの選択肢であるとしました。

次に、武藤氏はコグニティブ実現のために重要なポイントを紹介。基幹システムとクラウドの連携、そして、オープンスタンダードと呼ばれる、オープンコミュニティーの中で多数の企業や団体の英知を結集して生み出された先進的な技術やサービスを利用することで、短時間で技術革新を実現するという大きなメリットを享受できることを強調しました。

事例として紹介された、日本医療データセンターでは、既存システムに蓄積された膨大な医療統計データを、APIを経由で生命保険やフィットネスクラブなどの異業種が持つ情報とクラウド環境で連携。利用者の健康増進を図りながら、医療費や保険料の抑制に貢献している社会的意義を兼ね備えた先進的な取り組みが取り上げられました。

来場者の興味はやはり事例。話はオープンコミュニティーから生まれた先進的な技術・サービスを活用した2つの事例に移ります。三菱東京UFJ銀行では、次世代の標準取引方法と期待されている、オープンソースのブロックチェーンを契約管理のために利用するサービスをIBMのクラウド上で構築。試験運用を開始しています。また、宇宙研究開発機構(JAXA)では、IBM Power SystemsとNVIDIA社のGPUを使い、高度な数値シミュレーションをより高精度化。2桁や3桁単位での処理速度の高速化にチャレンジしています。今後もオープンコミュニティーで培われた先端技術を活用し、シミュレーションの大幅な品質向上が期待されています。

武藤氏は最後に、「IBMは、毎年6千億円規模で研究開発に投資し、米国の特許取得数は24年間連続ナンバーワンです。IBMはテクノロジーで業界を変革し、今後も常識を越えるような新しいテクノロジーへ挑戦し続けます。」として講演を締めくくりました。

『AIX + Powerだからできる!基幹システムとAIの連携で、コグニティブ時代の勝者へ』

次に登壇したのは、IBM iユーザー企業の皆さまにもなじみが深い、日本アイ・ビ-・エム株式会社の久野朗氏。「日経コンピュータによる顧客満足度調査 2016-2017」の結果、IBMはエンタープライズサーバー部門で、顧客満足度1位を獲得と、IBM i が性能機能面と信頼性の両面で、お客様からの高い評価を受けたことを、多数の来場者に向けて感謝を伝えたところからセッションはスタートしました。

講演の冒頭部分では、「安全・安心+爆速のハードウェア」のIBM iによって、市場への迅速な対応を実現した事例が紹介されました。年間5,000万足の靴を販売するグローバル企業、クラークス(Clarks)では、企業の急成長に伴い、市場のトレンドを早く理解し、サプライチェーンへと迅速につなぐことが重要課題となっていた背景を振り返ります。

その対応策として、同社はグローバルのオペレーションを支えるSAPアプリケーションとDBをIBM Power Systems上で稼働し、AIXとFlashストレージを採用。アプリケーションとDBを統合することで、バッチ処理の時間を5時間短縮しただけでなく、迅速な日報作成、高速なデータ分析を可能とし、短時間でサプライチェーン側に状況を反映することが可能になりました。

次に紹介されたのは、進化し続けるIBM i に関する最新情報です。IBM Power Systemsには2つの製品ラインナップがあります。1つは、IBMのメインフレームで培ったテクノロジーをフルにチューニングしたタイプ。もう1つは、オープンコミュニティーの中で、IBMが先進的な企業と一体となって生み出したテクノロジーを利用した新たな製品ラインナップです。たとえば、OpenPOWER Foundation(※)を立ち上げて、爆速と信頼性のIBM Power Systemsの情報をすべて公開し、先進的なテクノロジーを持つ企業とともに、IBM Power Systems上で各社の製品やサービスを実装します。IBM Power Systemsの最新モデルのように、オープンなコンソーシアムを組んで、各社の先端的なテクノロジーを組み合わせて提供します。IBM Power Systemsの安心・安全+高信頼性に柔軟性が加わりました。

(※)Open Power Foundationは、Google、IBM、Mellanox Technologies、NVIDIA、Tyanによって2013年に設立されました。Minskyは、Open Power Foundationにおける協業の成果で、Power8プロセッサーとNVIDIAのTeslaP100のGPU間において、x86ベースをはるかに上回る高速なNVLINK接続を実現し、大量データの処理能力を一気に高めます。
参考記事:【徹底検証】IBM POWERとIntelのXeonをいろいろな角度で比較してみました

IBMはさまざまなオープンコミュニティーに参加しています。その1つの例として、本来はLinux上で動作するオープンソースの機能を、AIX上でも利用できるようにする取り組みがあります。クラウド構築のためのchefや、パッケージ管理のためのyum、プログラミングツールのnode.jsなど、著名なオープンソースに対応しているので、Linux技術者のスキルと人的リソースをAIXにも活用することができます。

IBMでは、現在のPower8の次期プロセッサーとして予定されている、Power9とPower10、OS側は現在のAIX7.2の次の2バージョンというように、常に将来2世代の開発計画が明確になっており、ユーザーにとっては長期的な視野でビジネス計画を立てやすいシステムといえ、これはIBM iでも同様です。

また、「AIX + Power」ではビジネスの成長、処理量のピークやトランザクション量の変動などに応じた、フレキシブルな従量課金制度も用意されており、コスト面からも優位性のあるサービスであることが紹介されました。

「AIX + Power」は、IBM Watsonなどのコグニティブと連携し、既存資産を活用しながらイノベーションを引き起こす次の一手を可能にします。SoR(Systems of Records)と、SoE(Systems of Engagement)の連携で創出されるデータをSoI(Systems of Insights):コグニティブ(ディープラーニングなど)に読み込ませ、学習し、適切に判断することで、初めてコグニティブは機能します。その中において、「AIX + Power」は、SoRとSoEを同時に満たしながら、SoIを含めたトライアングルの仕組みをEnd to Endで『爆速化』し、コグニティブにおける成功を支援すると、同氏は協調しました。

ここで紹介されたのは、IBM iによるコグニティブの実現と、『爆速化』に成功した事例です。Power8プロセッサーとIBM SPSSの組み合わせにより、パーソナル医療における分析検査の精度を高めながら、検査結果の分析にかかる時間を83%も短縮して、診療コストの削減と、患者の医療費負担の最少化に成功したカナダのニューファンドランドメモリアル大学の事例や、Power8プロセッサーとNVIDIA社のGPUとを組み合わせた環境上に、Kinetica(キネチカ)を使った超高速のインメモリーデータベースを構築することによって、従来のインメモリーデータベースの270倍から420倍の高速処理を実現し、市場のトレンドを迅速にサプライチェーンに反映することに成功した、米国の大手小売業の事例などがあげられました。

『「AIX + Power」を使えば、データを爆速で貯めて、爆速で整えて、爆速で学習することができる。そして、Powerだからこそできる、End to Endでの爆速環境で、お客様はイノベーションを実現し、コグニティブの時代の勝者となることでしょう』と、久野氏は熱い言葉で話を終えました。

『ディープラーニング、HPC/CAE/HPDA全てで卓越したパフォーマンスを発揮するプラットフォーム』

最後にレポートするのは、日本アイ・ビ-・エム株式会社の笠毛 知徳氏によるセッション。人工知能の歴史や分類に始まり、ディープラーニングを実装するための流れ(ステップ)とディープラーニングの基盤を支えるソリューションが詳しく説明されました。笠毛氏が強調したのは、ディープラーニングシステムの実装の流れに、データを『貯める』『整える』『学習する』という3プロセスがあり、その3プロセス全体を最少コストで、しかも統合的に支える仕組みが必要だという点です。

ディープラーニングシステムを実装する際に、『貯める』プロセスでは、単にデータを貯めるだけでなく、どう管理し、どう活用するかまで考慮すること、『整える』プロセスでは、学習に活用できるよう、データを簡単に加工できる仕組みを構築すること、『学習する』プロセスでは、数多くのモデルを作って精度を高めることが重要です。

ディープラーニングの全プロセスに対応できる統合基盤の構築は、高性能のハードウェアだけでは成功しません。そして、オープンなハードウェアとソフトウェアを活用して効率的に進めることが成功に至る最短距離ともいえるでしょう。以下で概要を記載した「Elastic Storage Server(ESS)」、「Spark on Power」、「HPCシステム」、「Power AI」というIBMが提供するディープラーニング向けソリューションを活用することで、3つのプロセスごとのシステムではなく、ディープラーニングの全プロセスに対応できる統合基盤の構築が可能になります。

<IBMのディープラーニング統合基盤ソリューション>
・Elastic Storage Server(ESS)
 多種多様な大容量データを安全に保管するために、1ラックにソフトウェアとハードウェアをアプライアンス化した『魔法の箱』として提供します。ディスク障害の影響を最小化するために独自のRAID機能を持ち、障害時には速やかな復旧を実現します。

・Spark on Power
 データの整形・加工を短時間で実施するために、Hadoopを進化させたSpark on Powerと、便利なツール類を提供します。

・HPCシステム
S822LC for HPC(コードネーム:Minsky)は、搭載された最新技術によって、学習時間の大幅短縮を実現しました。CPU-GPU間のNVLink接続により、データの転送速度を大幅に改善し、x86アーキテクチャと比較して2.5倍の接続速度を実現しました。

・PowerAI
 人気のディープラーニングツールをMinsky上で最適化し、Power AIパッケージとして無償で提供しています。たとえば、ディープラーニングのフレームワークであるCaffeを利用したい人のために、IBM Power Systemsの環境で実行性能をアップしたIBM Caffeも提供。ボタン操作1つで簡単に導入できる便利なパッケージとなっています。

セッションの最後で笠毛氏は、IBMがコグニティブ・コンピューティングの根幹を支えるPOWERプロセッサーに投資を継続し、さらなる進化を図る計画について2つ紹介しました。

1つ目は、超低電力消費技術である、Neuromorphic Computing(ニューロ・コンピューティング)。データ処理量の爆発的な増加への対策として期待されている技術です。IBMの「Deep Blue」がチェスの王者に勝利した1997年のマシンはなんと2tもの重量で消費電力は200kw、とても実用的なものではありませんでした。そこから約20年、ヒトの脳の仕組みにヒントを得て開発された「脳チップ」を使い、ヒトの脳と同じような超低消費電力を目指しているとのことです。

もう1つは、深刻化するデータ処理量の増加に向けて、超高性能を実現する量子コンピューターを、クラウド提供する取り組みです。量子コンピューターは、従来型コンピューティング・システムで対処するにはあまりにも複雑で、指数関数的に拡大するような問題に取り組むことができるように設計されています。汎用量子コンピューティング・システムのサービス「IBM® Q」は、IBMクラウド・プラットフォームを通じて提供されます。誰でもIBMクラウドを通じてIBMの量子コンピューターにアクセスし、アルゴリズムや実験を実行したり、個々の量子ビットを操作したり、複雑なシミュレーションを検討することができるようになるとのことです。このように、現在研究フェーズにあるものも含め、今後の展開に注目してほしい、として笠毛氏は講演を締めくくりました。

コグニティブを支えるIT基盤には、膨大なデータを『貯める』『整える』『学習する』行為を高速で実行できる統合的なシステムが必要とされるようになります。その主役となるストレージはクラウドとなりますが、一方で過去のデータ資産を保持するIBM iはその特性がゆえに、コグニティブなシステムと連携する可能性は今後増加していくことは間違いないのではないでしょうか。今回2番目に紹介したセッションでもAIXの事例が取り上げられていましたが、IBM iに関係するエンジニアにとっても、コグニティブ、AIがひとごとではない時代に突入しつつあるのです。

関連キーワード